診療記録(泌尿器)

頻尿と排尿時の痛痒に牛車腎気丸+附子末1g
〔症例〕 男性 42歳 公務員
〔主訴〕頻尿及び排尿時尿道の痛痒感。
〔現病歴〕某年4月より職場でデータ入力作業がはじまりコンピュータの操作が難しくストレスだった。7月下旬より排尿すると尿道に軽い痛みを覚え残尿感も伴った。そして腰回りが重苦しかった。泌尿器科の検査で異常はなく、尿が混濁しているとの理由で抗生剤が出た。服用により多少改善したが残尿感は変わらなかった。8月に相次いで2ヶ所の泌尿器科で検査を受けてみたがやはり異常はなかった。症状経過が前立腺炎に似るとの説明でセルニルトンを飲んで効果はなかった。9月中旬いくら調べても異常は見出せないことから安定剤で様子を見るよういわれた。
〔現在症〕同年10月漢方治療を希望し初診した。長身で体格がよい。脈充実。舌やや乾燥。両腹直筋が厚く緊張が強い。臍下不仁をはっきりと触知する。手足先が冷たい。聞くと夜寝入りばな足が火照るという。
持参した経過メモには「膀胱付近の違和感と尿意の感覚に敏感になった。日中(特に職場では)尿意が頻繁になった。排尿すると痛痒感もある。ただし就寝中に排尿のために起きることはあまりない。今の自分が尿意のある状態なのかそれともない状態なのか、尿意があったとしてもそれが通常の尿意なのかそれとも病的な尿意なのか、区別がつけられない」とある。
〔治療経過〕愁訴には心理的要素も疑われたが、ただ安定剤では改善してないこと、また八味丸の証が明瞭であることから、身体病が基礎にあると考え、八味地黄丸エキスを飲んでもらった。3週後には頻尿回数は半減した。5週後にはさらに3分の1に減じた。痛痒感も消えた。なお時に尿意切迫感を訴えた。そこで処方を牛車腎気丸に変えて附子の量(*)を0.5gだけ増した。2週後に来院すると開口一番今度の薬はよく効いた、7、8回だった尿回数が5、6回に減じ痛痒も軽減したという。さらにその6週後には頻尿が消え痛痒は朝一番の排尿の時だけとなった。さらに3週間続けて様子を見たがそれ以上の変化はないので前方に附子末1gを追加した。するとその3週後今度のはさらによく効くといった。尿道の痛痒感、尿意切迫が週に1度あるかないかになった。さらに3週続け、ますますよい前回附子を追加してから特によいという。残尿感もほぼ消えた。夜から朝にかけての下腿の重苦しさ浮腫感もなくなった。開始後5ヶ月で治療を終わりとした。
*注:エキス剤の八味地黄丸は附子を0.5g含む。牛車腎気丸は、八味地黄丸に牛膝、車前子、附子の三味を加えた処方で、附子の量は1.0gであり八味丸に比べ0.5gだけ多い。
〔治療メモ〕各種処方集を開くと八味地黄丸は附子の量が通常は0.5gになっています。症例によってはこの附子の量を増量すると切れ味がよくなります。その効果はとても明瞭であり、薬を飲む患者さんが自らはっきりと評価の言葉を伝えてきます。その態度は治療する者にとりたいへん印象的です。

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慢性膀胱炎に清心蓮子飲+安中散
〔症例〕女性 64歳 主婦
〔主訴〕膀胱炎症状を治したい。
〔既往歴〕5年前甲状腺機能低下症、2年前から高脂血症で内服。不眠症で眠剤を常用。
〔現病歴〕過去10年来膀胱炎が治らない。毎月のように下腹部にヒリヒリする疼痛が起き残尿感と尿の混濁も伴う。その都度抗生物質の内服で落ち着くが、しかし痛みはすっかりは取れず午後に強まる傾向がある。最近は1週毎に悪化する。
〔現在症〕中肉中背。肌の色白い。脈遅弱。舌特に所見なし。腹は軟で臍下不仁を触れかつ下腹が冷たい。腰から以下足先まで冷えるのでスカートがはけないという。虚証の人。
〔経過〕某年6月下旬初診。慢性化して反復する膀胱炎には猪苓湯合四物湯が第一選択薬だからそのエキス剤を7.5g分3で処方した。なお週1回くらいの割で悪化は続いたが痛みの方は和らいできた。8月下旬服用5週目ころに胃が重くなり食欲が低下した。地黄剤が胃に負担となったものとみて清心蓮子飲に変えた。2ヶ月余り続けた11月中旬には下腹痛、残尿感、尿混濁のいずれもが消えた。12月下旬胸焼けがして半分に減らして飲んでいた。そこで清心蓮子飲を5gに減らした上に安中散2.5gを加えて分2服用に変えた。すると今度は具合よく飲めた。以後経過はよく服薬もしばらくは1日1包の割で続けた。初診後4年経過した最近では痛みのあるとき頓服する程度で済んでいる。痛む感じの時は水分摂取を増やすとよいという。
〔治療メモ〕胃腸が弱く地黄の入る猪苓湯合四物湯では胃が重くなり食欲もおちた。清心蓮子飲ですら胸焼けを来した。平素から何かすると胸焼けを起こすと述べていた。これには安中散の併用が奏功したことは幸いだった。
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