診療記録(頭痛)

群発性頭痛に呉茱萸湯
〔症例〕女性 40歳 主婦
〔現病歴〕子供時分からの頭痛持ち。ズキズキ痛む。半年前頭痛激しく嘔気がして起きあがれなかった。左目の奥から左後頭部が痛む。眼科では目に異常なく三叉神経痛といわれた。今年病気一つしなかった友人がクモ膜下出血で突然に死んで驚いた。それで最近また痛み出した機会に受診する気になった。
〔現在症〕体格普通。色白。脈は緩い。舌無苔。腹皮やや薄く軟らかめ。便通は便秘と下痢の繰り返し。生理時腹痛で鎮痛剤を使用する。
〔頭痛の様子〕前兆もなく突然目の奥が痛む。朝起きるとすでに痛んでいる。いくら寝てもスッキリ目覚めたことがなく起床時すでに疲れている。
〔治療経過〕某年7月初診。呉茱萸湯を1週間分処方した。飲んだ翌日には頭痛が止まった。腹にガスがたまるとの訴えに前方に桂枝加芍薬湯を加え2週間分処方した。これで便通も安定した。呉茱萸湯を2ヶ月半続けこの間発作が全く起きなかったので治療終了とした。以後7ヶ月になるが受診してない。発作は起きてないと思われる。
〔群発性頭痛について〕この患者さんの頭痛には、以下に述べる群発頭痛の特徴を幾つか認めます。その特徴は前兆や前駆症状がなく起きる。激しい痛みで目玉がえぐられるなどと表現される。頭痛は年に1、2度群発し各々が2、3ヶ月間続く。痛む部位は眼窩およびその周辺で三叉神経の第1枝と第2枝の支配領域に起きる。就寝後2~3時間以内あるいは早朝に周期的に起きる傾向がある。流涙、結膜充血、鼻閉などの症状を伴う。この患者さんの頭痛には以上の特徴の幾つかを認めるので群発頭痛の可能性が最も高いです。
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片頭痛に呉茱萸湯
〔症例〕男性 33歳 会社員
〔主訴〕疲労倦怠、不眠、眼痛、頭痛
〔現病歴〕5年前から不眠、頭痛、眼痛で大学病院の内科、心療内科、精神科で検査を受けた。異常はなく自律神経といわれた。3年前父親の病死をきっかけに症状が増悪した。
〔頭痛の様子〕頭痛について特に訴えだしたのは初診後4ヶ月が経過した同年12月末ころだった。頭痛発作は左側で左目の奥から始まってズキズキ痛み頸筋や肩が張る。一度なると何を飲んでも治ることはないが、寝て起きると治っている。発作には特定のきっかけなく不定期に起きるが、目の使いすぎ、緊張、頸筋から肩の上が冷えたときなどに起きることがある。あるいは朝から痛み出し発展することもあると述べた。いわゆる偏頭痛である。
〔現在症〕体は細く長身。顔色薄黄色。舌無苔。脈普通。腹は少し膨隆。右胸脇苦満がある。腹筋が軽く緊張する。拍水音を認める。臍上に動悸を触れる。以上虚証の人。初診時に体調を問うと、眠りが浅い。怠く疲れ易い。頭が重い。肩と頸が凝る。掌に汗をかく。睡眠剤を飲まないと翌朝怠くボンヤリするということで、このときは頭痛が主訴ではなかった。
〔治療経過〕某年9月初診。睡眠剤は当面続けてもらった。訴が幾つかあったので先ずは取り組みすい疲労倦怠に補中益気湯を試みた。これで体は温まったが肝腎の疲労は改善しなかった。次いで柴胡桂枝乾姜湯、黄耆建中湯、抑肝散加陳皮半夏を試みて結局どの薬が有効ということもなかった。翌年1月初旬に治療目標を片頭痛に切りかえ補中益気湯に呉茱萸湯を加えた。2週後には呉茱萸湯を飲むと背中や肩から上がポーッと温まり血巡りがよく感じる。これまでのうちで一番効果を感じるという。ようやく効果はでたものの、仕事と家庭が多忙で、2週分の薬を持って行くと1ヶ月間で飲むペースだった。それでも効き目はあり頭痛発作は多いときでも月1回程度に減少した。4月ころには胃腸薬が不要になり、嗜好が変わってコーヒーが飲めた。5月には睡眠剤も不要となった。ただし平素の疲れ易さと発汗傾向は補中益気湯を続けてもなかなか改善しなかった。翌々年には頭痛は殆ど訴えなくなった。疲労倦怠が強いとき数ヶ月に1回程度受診した。秋頃には仕事で肩や頸が脹り頭も痛んだが、従来のような発作性の頭痛ではなくなっていた。
〔治療メモ〕片頭痛に呉茱萸湯がよく効きました。この例のように治療により片頭痛が治るとやがて緊張性頭痛へと変わる例、また初めから片頭痛と緊張性頭痛とが一緒にある例もあります。著者のクリニックでは偏頭痛単独例よりも両者併存例の方が多い印象があります。
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片頭痛、緊張性頭痛、DSPS・抑うつと症状が変遷した例
〔症例〕男性 28歳 会社員
〔主訴〕頭痛
〔既往歴〕大学生であった4、5年前に非24時間周期睡眠障害になった。目覚ましが鳴っても朝に寝過ごした。登校できない日が多くなり3回留年して在学7年目で中退した。最近数ヶ月間また朝起きられずに寝坊する。起きても日中もボンヤリする。
〔現病歴〕頭痛は、過去にも起きたが、今回は1年位前から続いている。最近は特に痛い。内科の鎮痛薬クリアミンは効くが、胃が不調になり、口周りがしびれ、臭いと味も変わり気持ちが悪い。
〔現在症〕長身で体格はよい。脈やや数。舌微白苔。腹は割と弾力がある。臍上に動悸を触れる。実証の人。
〔頭痛の様子〕目の奥とこめかみから後頭部にかけてズキズキ痛む。首筋や肩も凝ってくる。寒気や空えずきも伴う。痛みだすと半日から1日と続き一夜明けると治っている。体を動かすと頭に響く。臭いも頭に響ききつく感じる。平素は手指が冷たいが頭痛するとボヤッと熱くなる。体が重いとか忙しいときに起きる。仕事中よりも休日やホッとしたとき痛む。
〔治療経過〕某年3月下旬初診。呉茱萸湯5gを7日分処方した。薬を飲むと頭痛がほとんど起きなくなり、手足や首の周りが温まった。このころ睡眠相が遅れがちになり補中益気湯5gを追加した。その後は頭痛せず起床時刻も安定していた。6月中旬に頭全体がボンヤリと持続的に痛み呉茱萸湯では治らなくなった。呉茱萸湯と半夏白朮天麻湯を併せ飲みこの頭痛は消えた。消えて2週後の受診で「うつ気味で朝起きられず会社をサボることがある」という。同じ薬を2週分持ち帰り以後外来が途絶えた。
〔治療のコメント〕片頭痛が呉茱萸湯でよくなると緊張性頭痛へと質が変わりました。これには呉茱萸湯ではなく半夏白朮天麻湯が効きました。するとまた症状が変化して睡眠相の遅れとうつ傾向が再発しました。これには補中益気湯をすかさず用いるべきでしたが、頭痛治療に気を取られ、処方の対応が間に合いませんでした。今考えると外来が中断したのは残念でした。
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