診療記録(疼痛)

腰痛に八味地黄丸

腰痛に当帰四逆加呉茱萸生姜湯
〔症例〕 58歳 男性 無職
〔現病歴〕大手企業でコンピュータシミュレーションにたずさわったのち、大都会のマンションを引き払って地方都市に移り、家を新築して環境のよい田舎暮らしをはじめた。
翌年は思わぬ寒さで積もった雪が消えなかった。雪が解けて氷になり厚さ
が4㎝もあり庭に張りつき滑って歩くのが危険だった。毎日1時間スコップで氷を砕き続け、お腹がすいてしばらくはかえって体調もよかった。しかし不慣れな作業はやはり無理だったようで、2週間たったころ腰が痛み歩くのも苦しくなったなった。胃腸が弱く鎮痛剤は恐くて飲む気にならない。
〔現在症〕背は高いが、顔色は青白く、極端に痩せている。平素冷え性。
脈は触れやすく速い。舌は無苔で潤っている。腹皮は薄く、やや突っ張り気味。臍下正中部を押すと指が抵抗なくめり込み、臍下不仁を認める。また臍の上方と下方に正中芯を触れる。なお鳩尾から臍の下まで軽くゆするとボシャボシャ水の音がする。腹部所見をみてもいかにも腹の虚弱な様子がよくわかる人である。
〔経過〕当帰四逆加呉茱萸生姜湯を
3日飲むと痛みが消えた。
〔コメント〕引っ越して新築の家に入居して間もないころ、施工業者とのやりとりで神経を使い、胃痛、胸焼けを訴えたことがある。安中散を飲んでもらったところ、症状は取れたが、かえって食欲がおちた。ただでさえ痩せているので本人は食欲が落ちることは一番心配である。
SM散に切りかえ食欲は回復した。安中散で食欲が低下する例はめずらしい。よほど胃腸が弱いものと思う。
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腰痛に五積散
〔症例〕71歳の老女
〔主訴〕腰と背中が痛み起床が辛い。
〔既往〕60歳大腸癌手術。70歳年前尿路結石を排出した。肋骨骨節(骨粗鬆症)。
〔現症〕ゆっくりと入室。背は高いが痩せて顔色悪く目に力がない。脈は沈んで弱い。舌に薄く白苔がかかる。腹は軟弱で臍上で動悸を触れる。下腹は膨隆し糞塊を触れる。便秘。血圧正常。夜中トイレ2回。足が冷え右下肢がツレる。足裏に紙が張付いた感じがする。
背中の痛む部位は中央で腰寄り。診察が終ると痛みのため仰向けでは起き上がれなかった。一旦身体を横向きにして両手を使って上体を支え起こし、ベッドに座りそれから立上がった。
〔経過〕某年9月中旬初診。背中の痛みに八味地黄丸を選び足のツレには芍薬甘草湯を加えた。これで足のツレはよかったが背部痛は1ヶ月過ぎても改善しなかった。かえって胸が焼け腹が脹りガスが出た。地黄剤が胃腸の負担になるので使用を止めた。このころ頻尿や便秘と腹滿も訴えたのでこちらを治療した後、12月五積散を用いると背部痛は1ヵ月で消えた。
翌年2月に雪道で転び腰を打った。その痛みで寝起きが辛く夜中トイレに間に合わず失禁した。失禁は清心蓮子飲で治ったがその間に腰痛が一段と進み、また右足が突っ張り膝が伸びなくてバスの升降にも困った。3月再び五積散を用いると2週間で痛みが消え歩幅も伸びた。
同年8月今度は右背中が痛みだし寝返りを打つと息が詰った。桂枝加朮附湯をあげると2週で痛みが消えた。
翌々年1月再び腰痛になり桂枝加朮附湯2週間で楽になったがシモヤケができ歩くと足指が痛んだ。当帰四逆加呉茱萸生姜湯に変えて2週間で腰痛もシモヤケも治った。
〔コメント〕腰痛と背部痛には五積散、桂枝加朮附湯、当帰四逆加呉茱萸生姜湯が効いた。処方の名前を見ると効く薬はまちまちのようにですが、実はこれら処方は桂枝湯を共通して含んでいて、桂枝湯類が有効とわかります。
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腰痛に桂枝加朮附湯
腰痛に芍甘黄辛附湯(エキス剤は麻黄附子細辛湯+芍薬甘草湯+大黄末)
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腰痛に疎経活血湯
この方は慢性湿疹で当院通院中のあるとき腰痛を訴えたのでした。
〔症例〕女子事務員 37歳 既婚
〔主訴〕腰痛。
〔現病歴〕昔から時々腰痛になる。今回は某年7月に腰がギクッと痛みだし、針灸治療を受けて3週間たつがまだ毎日痛い。足も冷えて疼く。
〔現在症〕背が高くスラッとした体型。脈舌所見なし。両腹直筋緊張。臍下不仁は認めない。生理時に腰腹痛や偏頭痛が伴う。
診察ベッドから起きあがろうとすると、これまでと違い、一旦身体を横向けに直し、両腕で支えて上半身を起こして座り、ゆっくりと立ち上がる。以前と違い仰向けから直に起き上がることができなかった。
〔経過〕同年8月初旬、冷えて痛むを目標に先ずは当帰四逆加呉茱萸生姜湯を飲んで頂いた。1ヵ月続けてこの間一旦は軽快したかに見えて逆戻りした。この結果から地黄が入った八味地黄丸に変えた。すると日々よくなり1ヵ月後にはベッドから真っ直ぐ起き起きあがることができた。しかし背中(右腰の上、背筋が凝って硬い)に突っ張りを覚え腰の悪化が不安で重い物は持てなかった。八味地黄丸が有効か無効かわからなくなった。そこでやはり地黄の入った疎経活血湯を試みた。2週間後には洗顔の際腰をかがめることがきた。さらに効きを高める意味で附子末0.5gを追加した。2週後の11月上旬には腰痛がすっかり消え服用を止めた。同月下旬に風邪でクシャミをしてギックリ腰になったが、このときも疎経活血湯で直ぐに治った。附子は加えなくとも効いた。
〔コメント〕当帰四逆加呉茱萸生姜湯は一旦は効いてすぐ効かなくなった。こういう現象はときおり経験します。こういうとき私は何か薬味が足りためと考えて加えるとうまく行くことがあります。このときは地黄がないためとして八味地黄丸に変えてしばらくはよかった。やがて背筋の突っ張りがでてきて八味丸の効果がわからなくなった。これを疎経活血湯に変えてぴったり効いたから、この方にははじめから同湯を使えうとよかったかも知れない。また今思うのですが、背筋が凝って硬いことは四物湯(疎経活血湯も含む)を選ぶ目標の一つとはいえないか、そんなこと公式にいう方はいないですが、どうかなと思います。
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