神経科症状

不眠 頭痛 抑うつ

a.不眠とは
不眠は、うつ気分と同じく、心と体いずれの原因でも現れます。
但しすべての不眠が病気というのではありません。病気でなくとも眠れないことはよくあります。寝つけないときふと思い起こすでしょう、日中イヤなことがあった、コーヒーを飲み過ぎたなどなど。それにまた、とびっきり嬉しいことがあった日は寝つけなくてもそれをいぶかる人はいないでしょう。

そもそも眠りは単なる脳のお休みではありません。脳は体が寝てる間も働いており、それは夢を見ることからも窺えます。夢の中で脳は日中の心の残務整理をするという説があります。眠りは心身の出来事や人間関係とつながる全体活動です。その不調和の結果として不眠は現れます。
そこで不眠を大まかに次の3つに分けて考えます。

b.気質や体質によるもの
物事に驚きやすく心配性の気質なら、子供のときは夜泣きや夜驚になり長じては不眠症のことがあります。
冷え性や胃腸の敏感な体質の人は寝つきが悪く眠りが浅いものです。
中学から高校生になって夜更かし傾向が現れ、寝起きの時間帯が後ろにずれて、明け方にならないと眠気が来なく昼ごろに目を覚ますようになる人もいます(その治療は下の項目Eを参照)
中高年になると夜中に何度もトイレに立ち熟睡できない人もいます。

このように年代によって体質は変化し不眠の様子も様々です。体質や年代から来る不眠は睡眠剤の効きがよくなかったりあるいは副作用がでやすかったりします。
このようなとき、漢方は体質改善をはかりながら不眠を治す方法として優れています。

c.無理を重ねたとき
ふだん体力のあまりない人、また精力的でも無理を重ねたときは身体は疲れているのに頭は冴えて眠れないものです。こんなときは生活習慣を見直す必要があります。
友人や家族と団らんした夜は、心温まる思いで気持ちよく眠れた経験は誰しもお持ちでしょう。ですから緊張が続けばリラックスもまた必要です。
気持ちの持ちようだから心を入れ替えて努力すれば治せると考える人がよくいます。しかしそれは間違いだと思います。そもそも自分で自分の心や気持を操作するのは至難の業です。何故かといえば、緊張も緩和もそのメカニズムは気づかぬうちに働くもので努力してできるものではありません。この無意識の働きが不調和なのですから、努力はかえって緊張を強めます。
こういうときは身体の方面から和らげるのが容易いですし確実です。心の緊張が続くと筋肉もまた強ばります。こわばった筋肉は温めると和らぎます。そしてここがポイントですが筋肉が和らぐと心もまた和らぐのです。心と体は連動していますからこれを利用します。
按摩やマッサージもよいでしょう。馴れ親しんだ人にしていただけばなおよいです。適度の運動で軽く汗を流すのももちろんよいです。身体が温まり気分もほぐれます。
熱くないお湯にゆっくりとしっとり汗ばむ程度まで入る(時間にすれば
15分くらいですか)方法もあります。体が温まり眠る態勢に入れます。これはリラックスのための入浴で清潔のためではありません。5分も入いると途中で苛つきあがりたくなることがあります。この苛つく時をちょっと我慢すると心境が変化し眠りの態勢に入れます。しかし我慢が目的ではないので、風呂場に携帯ラジオを持ち込んでもよいし、新聞雑誌を読んでいてもよいのです。楽しむことはリラックスの元です。
要は日々の生活の中に無理のないリ楽な方法を何か一つ備えておくことです。

d.心の病
こうした試みが呼び水となり自然良能が働き不眠はいつともなく忘れてゆきます。
いっこうに好転しないなら気持ちを切り替えて病気を疑うことも大切です。
まず身体の病気ではないか検査を受けます。身体が悪くないなら思い切って神経科医を訪ねます。
心の病に不眠は付き物ですが、特にうつ病の不眠は死にたい気持ちと表裏一体ですから軽くみるのは禁物です。「奈落の底に墜落する思いだった、なった者でないとわからない」と、あたかも理解されることを拒むかのように、経験者はいいます。どんなにか孤独だったのでしょう。さんざん頑張った結果がうつなのですから、こういうとき頑張れしっかりしろと励ませばいっそう孤独に追いやりかねません。むしろ一度自分も谷底に落ちる場面を想像してみます。その気持ちで深く息を吸ってから、寂しいね、つらいね、と静かに声をかけます。
よい眠りは病を回復させます。眠りは自然良能を目覚めさせますから、安定剤や睡眠剤はその眠りを得るために飲むといっても過言ではありません。眠気やだるさなどの副作用は病状が重いときはでないものです。でるのはむしろ回復期に入ったしるしですから、そのときを待ってお薬を減らせばよいのです。

e.不眠の漢方治療
不眠と目眩を訴えた婦人に柴胡桂枝乾姜湯+苓桂朮甘湯が有効でした。症例
不眠と焦燥と疲労など、勤労女性の生活の大変さをよく物語っている例があります。症例
不眠に加味温胆湯が効いた例です。加味温胆湯と痰飲との関係を考察しました。症例

f.睡眠相後退症候群(delayed sleep phase syndrome DSPS)について
この病気は入眠困難であるために不眠症と間違われます。しかし不眠症とは質の異なる病気で治療法もまた異なります。睡眠剤や安定剤は多くの場合効果がありません。効果がないばかりか吐き気などの副作用がでて飲めない方もいます。最近は新聞テレビで見ることもありますが、まだ知識がないためにご家庭で誤解を受ける方も少なくなく、ここで少し説明します。
この病気になると、睡眠の時間帯が社会生活上好ましい時間帯から後ろにずれ明け方に寝つき昼ごろ目を覚まします。起きてもボンヤリとして意欲も湧かず仕事にも勉強にも集中出来ません。夜更かしで朝寝坊という印象を与えます。そのため周囲の人もまた本人自身も「まなけている」とみなし、病気とは見ることが出来ません。睡眠の時間帯が後ろにずれますが、眠りの質や長さ自体には異常がないとされ、この点でも不眠症とは異なります。ともあれ不眠症とは区別する必要があり国際睡眠障害の分類では「睡眠相後退症候群」と呼んでいます。
睡眠と覚醒の体内リズムは普通は外界の明暗リズムよりも若干長いので遅れる可能性があるのですが、脳が体内を外界に同期させて遅れないように保っています。この同期の働きが病むと睡眠の時間帯が後ろへと後退します。
眠気をさす時刻が夜中の2時以降になる場合を病気と見なします。不眠を訴えて受診する人の10%位がこの病気といいますから、決して珍しいものではありません。20年ほど前に認定されたばかりの比較的新しい病気ですので、昔は医学部の講義では習いませんでした。
治療薬としてはメラトニンが有効のことがあります。メラトニンは体内に生理的に存在するホルモンですがこの病態では減少してます。メラトニンはアメリカではFDAが健康食品として認めています。日本では薬としても健康食品としても承認されていません。服用を止めると症状がまた逆戻りするので長期服用が必要のこともあります。ただしメラトニンの長期服用の副作用についてはまだ何も情報がありません。
(050408訂正)

g.睡眠相後退症候群(DSPS)の漢方治療
睡眠剤が使えないことと、漢方医学的に独特の所見(胸脇苦満や下腹圧痛)を認めたことから、私は過去10年間に20例余りの方に治療を試みてきました。治療成績は有効例が6割位という印象でした。どうやってみても治せなかった例も残念でしたが確かありました。
一般に本症候群が漢方で治せる例のあることやまた何割位が漢方で治せるかは、不眠症の専門家の間でもまだ議論されてないようです。治験報告は目下は論文が1編あるだけです。
私の経験では虚証と実証の両端はわりと治ります。虚実中間証に難治例が紛れ込んできます。

補中益気湯だけで治った例。<2003.5.4掲載>
症例
補中益気湯に四物湯を併用してよかった例。
症例
小柴胡湯に桂枝茯苓丸の併用で治った例。
症例

頭痛(血管性頭痛、緊張性頭痛)
頭痛の原因が脳器質性疾患によるものはその原因治療を先に行います。この場合には漢方治療を優先させることはありません。漢方治療のよい適応となるものは機能性の頭痛で、脳血管が痛む血管性頭痛と頭蓋を覆う筋肉が疼む緊張性頭痛とがあります。血管性頭痛の原因はまだよくわからない面があり原因では分類できません。そのため分類は原因ではなく症状の違いでわけ片頭痛と群発性頭痛とに区別されます。端的に血管性頭痛とは呼びますが、以下に述べるように神経と精神と環境も含めた広範な症状複合として起きるもので、単に頭が痛いだけの現象ではありません。治療もまたこれに応じて総合的な配慮や助言を必要とし、鎮痛剤の処方で済むものでもありません。

片頭痛
片頭痛は思春期など若い時に発症し、発症率は女性が多く男性の4倍にも上ります。
痛む部位は頭の片側で脈打つようにズキズキ痛みます。持続時間は数時間から1日くらい続きます。発作の頻度は月2、3回で朝起きるときに起きます。発作は生理、精神的ストレス、天候変化などにより誘発されたり悪化したりします。発作に前駆して悪心、羞明、音響恐怖、顔面蒼白などがしばしば起きますし、発作中にも持続し、増悪し、変化したりします。
前駆症状の次には前兆が、頭痛に20、30分先行して、起きます。前兆には知覚症状や運動症状がありますが、よくある前兆は視覚性のもので暗点または火花のようなきらめく光の輪として始まり徐々に大きくなります。後に続く頭痛が起きずに前駆症状に前兆が続いて終わる場合でも片頭痛と診断します。なお視野の前兆に次いで頻度の高いのが異常感覚で特にしびれ感です。

群発性頭痛
片頭痛とは対照的に群発頭痛は4〜6:1の割合で男性に多く起きます。発症率は20歳代の後半に高いです。頭痛は年に1、2度群れを成して起き(それで群発性と呼びます)、各々が2、3ヶ月間続きます。周期的に起きる特徴があります。群発性頭痛には前駆症状も前兆もなく、頭痛は片側に突然始まり、10〜15分で最悪状態に達します。痛みは三叉神経の第1枝と第2枝の領域に起きますが、特に眼窩とその周辺部位に著明です。頭痛はしばしば“目が抉られるような”、“穴を開けられるような”と表現される激痛です。片頭痛とは違い脈打つような痛みという表現はまれです。
痛みは通常45分から1時間続きます。発作は驚くほど規則的に起きます。数週間にわたり毎日夜間あるいは早朝の同じ時間に発作が起きます。重度の痛みの他に副交感神経の過剰活動によるといわれる流涙、目の充血、鼻づまり、顔面の紅潮、蒼白、異常感覚や徐脈を伴います。
片頭痛発作では患者は静かで暗い落ち着いた場所を求めますが、群発性頭痛患者は全く落ち着きがなく、じっと座っていることが出来ません。足踏みをしたり、飛び上がったり、走り出し、あるいは泣いたり叫んだりするのもまれではありません。アルコール摂取はその血管拡張作用により発作を悪化させます。患者の性格は野心的で、有能で、かつ衝動的で、情緒が不安定でもあります。消化性潰瘍、高血圧、冠動脈疾患の罹患率が高いです。
片頭痛患者に群発性頭痛も起きるものがあり、また群発性頭痛患者に片頭痛も起きるものもある。どちらの患者においても数%に起きます。

緊張性頭痛
緊張性頭痛には前駆症状とか視野暗点などの前兆はありません。通常はストレスまたは精神的な因子で引き起こされます。

結合性頭痛
緊張性頭痛と血管性頭痛(片頭痛と群発頭痛)とが組み合わされている場合は結合性頭痛といいます。発作の際は両者が併存します。
(05/05/10)

頭痛の漢方治療

群発性頭痛に呉茱萸湯が効いた例 症例
片頭痛に呉茱萸湯が効いたのち緊張性頭痛に変化した例 症例
片頭痛、緊張性頭痛、睡眠相後退症候群、抑うつと症状が変遷した例 症例