冷え症

 身体が冷えると
 身体が冷える人は少なくありません。子供や男性にもいますが一般にはやはり女性や中高年に多いです。腰や手足の先が冷えますがその他にも腹や背中や大腿また頭も冷えます。冷えが昂じると夜は電気毛布で足を温めないと眠れず、夏でも靴下を重ね履きしないと過ごせません。身体がシビレあるいは疼痛を覚えまた気が塞ぐことも冷えに伴う苦痛です。
 冷え症という言葉
 冷え症は現代病でしょう。夏は冷房をかけます。冷蔵庫で冷した飲物や果物や生野菜を年中摂ってます。こうして身体が外も中もいつも冷される現代人には冷えは昔の人に較べずっと多いでしょう。冷えを表す言葉には「冷え症」と「冷え性」とがありす。前者は「症状」のことで後者は冷える「体質」を表します。冷えは昔の人々も経験はしたはずですが、漢方医学書には冷え性という言葉がありません。現代医学では冷え症すらなくてあるのは日本だけだそうです。
 漢方の考え
 古代中国の漢方医学書では本人が冷えを自覚しても他人が触れて冷たくないことを厥寒(
けっかん)と呼び、本人は自覚しなくとも触れて他人にわかる冷えは厥冷(けつれい)と呼びました。両者を区別して厥寒よりも厥冷を一段重い病態としました。用いる薬も違います。前者には血行を促す当帰(とうき)などを後者には新陳代謝を活発にする附子(ぶし)などを用います。足は冷えているのに顔はのぼせることもめずらしくありません。これを上熱下寒あるいは上熱下冷と呼びます。古代人はこれを陰陽の気が上と下とに分離すると考えました。
 体温の調節
 さらに寒暑への体温調節の不調ということもあり、暑く感じて服を脱ぎ窓を開けたかと思うと今度は寒くなって窓を閉じ服を着ます。こんなことを忙しく繰返すと暑い寒いが自分なのか周囲なのかわからなくなります。妻がそんな具合ですとはじめは同情して窓の開閉を手伝った夫もやがてはついて行けないとこぼすこともあります。
 冷えと血行
 冷えは現代医学からみると身体の局所に熱が廻らないということです。廻らないのは血行がよくないからであり、血管を支配しているのは血管運動神経ですから、結局冷えの原因はつまるところ自律神経の失調ということになります。冷えた足を廻った血液は腹の中に戻ると腹腔内の消化器や生殖器を冷やし身体機能を下げるでしょう。冷えにはもう一つの要因があります。熱は新陳代謝の産物ですがこれは糖が酸素で燃焼することにより生じます。糖を燃やす主な臓器は骨格筋や消化器です。寒くて身体が震えるとき熱が増産されます。痩せて筋肉が少なかったり胃腸が弱ければ熱の生産も不充分ですから身体が冷えるのも道理です。
 冷えとむくみ
 足が冷える女性や高齢者には同時に足に浮腫を認めることが多いです。「冷えるところには水がたまり水がたまれば冷えが生じる」のは自然界の法則かも知れません。ちなみに冷えを治す処方には茯苓(
ぶくりょう)など水を逐う生薬が配合されたものがあります。
浮腫の成分はリンパ液です。毛細血管の隙間から血液が漏れでて組織液となります。これが細胞に栄養を与えまた老廃物を取り込んだのちリンパ管を通って静脈に戻ります。リンパ管には弁がついており、筋肉が収縮すると管がつぶれてポンプの働きをして、リンパ液は一定の方向に流れて逆流しません。ですから浮腫とは筋肉ポンプが働かないためリンパ液が組織間に溜まることです。栄養が届かず老廃物が取去られなければ筋肉の収縮は弱まります。収縮が弱ければ熱が出来なくなって冷えます。こうしてみると冷えと浮腫とは紙の裏表のような関係にあることも肯けます。さらに冷えが浮腫となりその水圧が血管や神経を圧迫してシビレや疼痛を起こすでしょう。浮腫でなくとも筋肉が凝ってシビレや疼痛を起こすのも圧迫のためで理屈は同じかも知れません。
冷えを来す疾患には甲状腺機能低下症や貧血性の疾患をはじめ幾つかありますから漢方治療を始める前に内科などで調べてもらうのはよいことです。
 冷えの対処
 日常生活の中で冷えに対処する方法としては、貧血気味の人は小松菜やレバーを食べ鉄分をとり血行をよくします。また足が冷えて浮腫む方は弾圧ストッキングを利用する方法もあります。浮腫を防止すると足の温度も上がります。締めすぎるとかえって浮腫みますからサイズにはご注意下さい。(NHKテレビ、ためしてガッテン1997.1.29放送)。なお弾圧ストッキング起きているときに着けるものです。つけたまま寝てはいけません。

冷えの漢方治療
先ずはじめに人参湯で手足の冷えが改善し体重も増えた症例を挙げます。
同時に偏頭痛を伴いました。冷えに水毒が伴うという上述の考えを証明する好都合の症例です。
流涎と頭痛に人参湯+呉茱萸湯
症例
足腰の冷えによく用いられるものに当帰四逆加呉茱萸生姜湯という薬があります。
身体が冷えるに当帰四逆加呉茱萸生姜湯
症例
腰が冷えるに苓姜朮甘湯
腰が冷えるだけでなく「腰が重い」という症状には苓姜朮甘湯が必要な例です。
症例
冷えて悪化する泌尿器症状に呉茱萸湯+苓姜朮甘湯
冷えによる頻尿・脚の脱力・倦怠・眠気など体調不良が日常生活に広く深く影響した例です。
症例