診療記録(婦人科)

月経困難症に桂枝茯苓丸加附子
〔症例〕 29歳、独身。
〔主訴〕生理痛と偏頭痛。
〔現病〕4年前から生理痛になり子宮後屈に子宮内膜症の気もあるといわれた。生理は遅れがち。前日から1、2日目にかけ腰が痛みまた偏頭痛も起きて会社を休む。生理中は排尿痛と排便時腹痛も起きる。生理後には下腹が痛む。帯下が多く菌が混じり膀胱炎になりがちである。
〔現症〕中背やせ型。脈が沈み細い。腹は皮が薄く軟い。両下腹に圧痛。冷たいもので下痢になる。
〔経過〕某年1月初診。まず桂枝茯苓丸を飲を飲んでもらった。下腹痛、排尿痛などは取れたが腰痛はかえって強まった。当帰芍薬散に変えると腰痛は取れたが今度はその他の痛みが続いた。そこで同年3月初めから桂枝茯苓丸にして腰痛は軽かった。呉茱萸湯も併用して頭痛によく効いた。6月初め安心したのか一時服薬を怠った。服薬再開1週後に生理になり、腰痛と下腹痛がひどく半日で退社した。7月中旬に附子末1gを追えてみた。次の生理は全く痛まなかった。痛まないのは数年ぶりといった。その後8、9、10月のときも腰痛は気にならなかった。
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多嚢胞性卵巣症候群に桃核承気湯加附子
〔主訴〕便秘症。
〔現病〕子供時代から便秘。通じ週1回。腹が張ってムカつく、ゲップがでる。
〔現症〕中肉中背。両頬紅潮。左右臍下及び両上腸骨窩に圧痛。下腹硬く冷い。生理不順、低温一相性、無排卵。冷房で手指白くなる。生理前に眠気がして朝の起床が辛くなる。
〔経過〕某年8月初診。主訴の便秘には麻子仁丸5gを用い、下腹圧痛により桂枝茯苓丸5gを併用した。薬はいつも2週間分あげたが患者は通じがつくと薬を止めるので通院も不規則になった。不規則なのは薬が合わないためかと考え、翌年1月桃核承気湯5gを試みたが服用態度は変らなかった。5月婦人科でホルモン剤をもらい基礎体温が二相化したものの依然無排卵性なので止めた。この機に月経異常に漢方は大切と説いて服薬を促した。1日平均で1包(2.5g)を規則的に服用し毎日通じがつき下腹圧痛はほぼ消え生理も規則的になった。しかし基礎体温は改善しなかった。12月前方に桂枝茯苓丸、更に附子末と加えたが効果は出なかった。翌々年3月充分に飲めないのは下痢のためかと疑い桃核承気湯を抜いた。すると便秘と生理前の眠気を訴えた。4月桃核承気湯4g+桂枝茯苓丸6g+附子末2g分2とした。今度は平均で1.5包を飲み3週後には二相傾向が現れた。ピル以外では初めだった。その後も二相性の生理が3回続き以後外来が途絶えた。排卵の有無は聞き逃してしまった。
 経過をふり返ると桃核承気湯加附子が効いたと思う。
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不妊症(子宮内膜症)に折衝飲
〔症例〕 30歳 主婦・パート  
〔現病歴〕昔から生理痛があり子宮内膜症といわれた。生理がはじまると激しい痛みで寝込む。同時に悪寒がして身体が震え節々も痛む。38℃台に熱発しCRP値は10~20に上がる。そのため過去3回も入院したことがある。子宮からバイ菌が入り腹膜炎を起すと聞いた。
そこで半年間はホルモン剤を使い生理を止めたものの、結婚して丸2年子供が出来ないので、8ヵ月前からホルモン剤を止め生理を再開させた。基礎体温は低温期が長く高温期が10日間くらい。
友人に生理時の頭痛と精神不安のため当院に通う人がいて、その方の紹介で某年12月末当院を訪れた。
〔現在症〕小柄で少し細身。脈、舌特徴なし。腹皮やや薄い。下腹はどこを押しても痛み、特に両上腸骨窩は押すとビクッと反応を示す。痛いのかくすぐったいのかわからないという。臀の対応部位を押すと圧痛を認めるので?血に間違いなかった。便通はよい。血圧92-54mmHgと低い。
〔経過〕下腹圧痛に対し桂枝茯苓丸を選びこれを2週間分と疼痛時追加用に芍薬甘草湯もあげた。
翌年1月5日から服用を始め20日の生理では下腹部痛が強く会社を休んだ。微熱もでた。その後さらに桂枝茯苓丸を1ヵ月間続けて3月6日に受診。2月の生理も痛みがひどく悪寒発熱が伴った。足がひどく冷えた。桂枝茯苓丸と芍薬甘草湯では生理痛にも感染症状にも効果がないので考え込んでいると、患者が今一番の望みは子供ですといった。そこで桂枝茯苓丸よりは一段虚証向きでかつ鎮痛作用も期待できる折衝飲をあげた。変な味がするとはいうものの服用を続けた。
1ヵ月後の 4月2日に受診。3月の生理は疼痛はよくないが悪寒発熱は消えたという。4月の生理が遅れているといっていた。以後外来が途絶えた。
5月友人に妊娠2ヵ月といった。翌年4月子供に恵まれたのは漢方のおかげと嬉しそうにしていた由。
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腰痛の治療で妊娠した例
〔症例〕32歳 事務員
〔主訴〕腰痛症
〔現病歴〕もともと両足の長さが異なり右が数ミリ長い。長く歩くと翌朝腰が痛みがちであった。今回は20日ほど前から毎朝腰が痛い。右側が強い。動き出すと痛みは薄れる。痛みが次第に強まり朝起るのが辛くなってきた。
〔現在症〕脈緩い。舌普通。右側に胸脇苦満。下腹腹直筋の両側辺縁に凝りと圧痛を認める。腹が張ると訴えるが外見的に膨隆はない。便通3日1回で便が硬い。このごろ切痔が悪化し出血する。生理は順調。
〔経過〕某年5月下旬に初診。桂枝茯苓丸7.5g+大黄末0.5gを服用して1週間後痛みが半減した。4週後痛みが3分の1に減った。6月は黒い生理出血が大量にでたことと、たまに痛む日もあるという程度になり、以後服薬を止めた。このころ下腹は前ほどの凝りや圧痛は取れていたが、全体に少し硬めだった。7月以降生理がないので9月に検査を受けると妊娠2ヵ月半ばと告げられた。
患者夫婦には結婚して5年間子供が出来なかった。妊娠し無事出産できて正に望外の喜びようであった。治療した私も当時は漢方の初心者で腰痛の治療で妊娠するとは全く考えもしなかった。
今考えると子宮内に滞っていた黒い悪血がたくさん出てきれいになり妊娠しやすい環境になったものと思う。
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