診療記録(皮膚科)

アトピー性皮膚炎に竜胆瀉肝湯合十味敗毒湯加石膏・大黄
〔症例〕 17歳 男子 高校生
〔現病歴〕幼児期からアトピー性皮膚炎と喘息を患い小児科治療を続けた。高校生になりコミュニケーションに問題が生じ当院を紹介された。家族はアトピーの治療も望んだ。以下アトピーについてのみ記す。
〔現在症〕中肉中背で骨っぽい。脈実。舌微白苔。腹壁は両腹直筋緊張し左右に胸脇苦満を認める。左上腸骨窩に圧痛を訴える。腹に手を近づけると触れさせまいと手で払いのける。便通は2日1回。
〔皮疹の様子〕肌は浅黒く渋紙様。顔面、肘内、膝窩、胸部、背部が一様広範に赤味を帯び熱を持つ。また同部位には赤い小丘疹も散在する。いたる所に掻き壊し傷がある。診察中も身体をボリボリと掻きむしって夢中である。診察もまたストレスになるようだ。
〔治療経過〕某年8月初診。赤く熱を帯びた紅班、乾燥、掻痒を目標に温清飲7.5g+大黄末0.2gとした。3週間続けて変わりがなかった。浅黒い肌、腹筋の緊張、くすぐったがる傾向などは典型的な一貫堂の解毒証体質であることおよび下腹の圧痛も考慮し、荊芥連翹湯7.5g+桂枝茯苓丸7.5g+大黄末0.2gに変えた。2週後には顔の赤い炎症が和らぎ首背が少し赤い程度に落ち着いた。なお腕や下腿を掻き壊して止まなかったがそのまま2ヶ月余り続けてみた。12月初旬に期末テストを控え皮疹が悪化しまた喘鳴も起きた。そこで半夏厚朴湯を追加しかつ煎じ薬に切り換えて荊芥連翹湯合桂枝茯苓丸合半夏厚朴湯とした。
翌年1月上旬さらに喘鳴が強まり皮疹も熱を持ち赤味と落屑も増した。座視するわけにもゆかず処方を変えた。半夏厚朴湯を飲んでいても喘息が悪化したのでさらに柴胡清肝散を加えることとし、また桂枝茯苓丸は、前年10月で既に圧痛が消えており、この機に除いた。その結果処方は柴胡清肝散料合荊芥連翹湯合半夏厚朴湯となった。1月下旬になり喘鳴が落ち着き処方を柴胡清肝散料合荊芥連翹湯と減らした。2月初旬依然として掻痒が激しいので再び処方を変えた。柴胡清肝散で1ヶ月間皮疹の様子をうかがったが、その効果がハッキリせず除くことにした。激しい掻痒(つまり煩躁)には石膏を加味し、処方を荊芥連翹湯加石膏8g大黄0.5gとした。2週間期待して結果を待った。あいにく依然首や肩を掻きむしった。そこで石膏は除き代わりに十味敗毒湯を加え、荊芥連翹湯合十味敗毒湯加大黄0.5gとした。すると2週後にはかつてなくよくなり顔の赤味がほぼ消えていた。3月初旬の期末試験にさしかかり、再び赤味が増し痒くて夜も眠れない状態となった。思案のあげく頓服でatarax 1丈を就寝前として生活も規則的となった。その後しばらくは同処方を続けた。顔面の皮疹が治ると代わって今度は下腿の掻痒が強まりまた掻きむしった。7月上旬この下腿の皮疹を目標に竜胆瀉肝湯合十味敗毒湯に変えると、2週後には下腿の掻破痕が明らかに減った。夏8月下旬発汗で痒みが増し、再び石膏を加味して竜胆瀉肝湯合十味敗毒湯加石膏10gと変えた。これで安定し以後この処方を継続した。9月下旬には診察中掻くことはほとんどなくなった。冬になっても風邪を引かず喘息も悪化せず、順調に受験勉強を続けた。翌々年の1月中旬のセンター試験では顔と首回りに少し赤味が増した程度だった。同処方を続けて6ヶ月が経過した。
〔治療メモ〕①処方を何度変えても確かな効果が得られなかった。1年と1ヶ月かかりやっと竜胆瀉肝湯合十味敗毒湯加石膏・大黄でよい結果を得ました。書きながら印象を深かったのは、治療する方も苦心惨憺したが、それを上回ってめげずに取り組んだ患者さん粘り勝ちということでした。
②この治療を通して十味敗毒湯の効果に興味が湧きました。一般に皮膚疾患に十味敗毒湯を用いる目標は、赤い小丘疹が散在しかつその丘疹の中央には小さな突起あるいは化膿した突起を認める場合です。アトピー性皮膚炎の場合も同様で、他の処方で皮膚の赤味やカサつきが軽快してもなお掻痒を抑えられないとき、しかも皮疹のどこかに少しでもこの小丘疹が混じるときは、本方を併用すると極めて効果的です。これで小丘疹のみならず炎症もまた押さえてくれる。先日は赤い小丘疹が全くない例にも有効なことを経験したから、小丘疹には拘らなくてよいかも知れない。
③十味敗毒湯に併用する“他の処方”としては、最近筆者は虚実中間付近なら好んで荊芥連翹湯を使う。下腿に皮疹が目立てば竜胆瀉肝湯に代えることもある。もっと実証あるいは耳鼻咽疾患の既往がなければ温清飲あるいは防風通聖散に十味敗毒湯を併用する。それでも改善がわずかなら下腹圧痛の有無を確かめ、少しでも認めれば桂枝茯苓丸も併用する。この3者併用ではじめて安定する例もある。治りが悪いときは圧痛がなくとも桂枝茯苓丸を加えたいとさえ思う。ただし以上の議論は虚証向きでないことは勿論でです。(05.02.08記載)
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上記症例で十味敗毒湯を使い覚えたので次の症例に早速応用しました。

アトピー性皮膚炎に荊芥連翹湯+十味敗毒湯
症例 男子 24歳 大学生
〔主訴〕動悸と便秘。
〔現病歴〕子供からのアトピーで悪化と軽快を繰り返す。この1年半位は特に悪く同時に便秘になった。皮膚科の痒み止め軟膏を使用中。
最近夜になると頻脈、動悸、胸や腕が熱く、不眠などの症状があり神経の問題と思い当院を受診した。アトピーも漢方で治れば幸いだという。
〔現在症〕身体はやや細長型で肌が茶褐色。脈は数。舌は無苔。胸部は中央が陥凹しロート胸。腹は両腹直筋が緊張し、右上腸骨窩に圧痛を認めた。便通は3日1回で便秘。
〔皮膚の様子〕某年冬2月の初診。全身肌が薄赤く少し熱感がある。掻痒が強い。各所に掻き傷の痕が多い。腹部や腕の皮膚は苔癬化して厚く硬い。
〔治療経過〕処方は不眠・動悸と瘀血圧痛を目標に桂枝加竜骨牡蛎湯+桂枝茯苓丸とし便秘なので大黄末を加えた。服用20日後には眠りが改善しアトピーも少しよかったが、その後続けてもよくならなかった。荊芥連翹湯+桂枝茯苓丸+大黄末を2週間、次に黄連解毒湯+六味地黄丸+大黄末を2週間と試みて痒みは一進一退だった。春5月になり温清飲+桂枝茯苓丸+大黄末に変えて4週後、顔や首の赤味が消え普通の肌色が見えてきた。服用8週後には痒みも軽く部位も肩や背中に限定し、この処方を続け夏まではよかった。秋に入り皮膚の乾燥と痒みが強まり肘などに搔き壊しが増えた。温清飲の量を増やしてみた。しかし効果が明らかでない上に服薬も不規則になり5ヶ月が過ぎた。翌年春4月になりかえって悪化した。処方を見直して荊芥連翹湯+十味敗毒湯+大黄末に変えた。これで痒みが直ぐに和らぎ今度は薬を規則的に飲みだした。服用2カ月で皮疹は全く消え苔癬化の痕が少し残る程度に治り6月中旬で外来終了とした。
〔治療メモ〕この治療でアトピー性皮膚炎に荊芥連翹湯と十味敗毒湯の併用がよいことを知った。荊芥連翹湯の基本となる生薬は黄連解毒湯+四物湯すなわち温清飲だるから、温清飲+十味敗毒湯が有効な例もあり得ることは想像できた。事実次の症例はそれを証明できたと思う。また両者の併用はアトピー性皮膚炎だけではなくニキビでも有効なことがその後わかった。(05/02/04記載)
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アトピー性皮膚炎に温清飲+十味敗毒湯+桂枝茯苓丸
症例 男性 39歳 会社員
〔既往症〕緑内障。
〔現病歴〕2年前からアトピー性皮膚炎のため漢方薬の柴苓湯と桂枝茯苓丸加薏苡仁を併用し軟膏を塗り続けてきた。夏は汗で悪くなり冬は乾くのでまた悪い。某年2月に転勤したため薬が切れ痒みが増した。皮膚科のプロトピック軟膏を塗ったら炎症が悪化し痒みと赤味が増した。漢方薬を申し出ると漢方はわからないといわれてしまい遠方にもかかわらず当院を訪ねた。
〔現在症〕長身でやや肥満気味のガッシリした体格。脈は充実。舌は無苔。腹は膨隆しかつ硬い。右上腸骨窩に圧痛を認めた。アトピー悪化して以来便秘気味。以上全くの実証体質の人。
〔皮疹の様子〕顔面が広くべったりと赤い。かつ白く乾いた皮膚が剥離する。首と背中に赤い小丘疹が散在し、腰の上部辺りは搔くためか薄赤い。両膝部分が発赤し落屑に加え搔き壊しの痕がある。
〔治療経過〕某年3月中旬に初診。荊芥連翹湯+桂枝茯苓丸加薏苡仁を1ヶ月続けてもらった。皮膚が更に乾いてきた。ザーネ軟膏を大量に塗り50gを3日で使い切るほどだった。荊芥連翹湯を止めもっと実証よりの防風通聖散に置き換えた。すると1週間後には赤味と乾燥は少し改善したが痒みはかえって強まった。そこで十味敗毒湯+越婢加朮湯に変えてみた。2週間後には皮膚が「バリバリに乾いてむける、引っ張るとバリッと裂けそうな感じ」という。皮膚が薄くなっていた。しかし四肢の末端部分は赤味が取れ皮膚がむけるのも減少していたのでさらに2週間同じ処方を継続した。顔や背中や膝窩が痒く、痒みで不眠がちになり依然よくなかった。温清飲+十味敗毒湯に変えると、身体の落屑が減少した。赤味と熱はなお取れない。この処方は全体としては確かに効いたが顔面の落屑はまだ著しかった。そこで前方に追加し温清飲+十味敗毒湯+桂枝茯苓丸とし1ヶ月続けた。これで顔の落屑が減り顎に少し残るのみとなった。これ以外にもよい変化がともなった。顔の浮腫が引いた。眼圧が20から15に下がった。便通も毎日となった。夏7月さらに1ヶ月分の薬を持ち帰り外来が途絶えた。(05/02/04記載)
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アトピー性皮膚炎に桂枝茯苓丸+十味敗毒湯
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ニキビに防風通聖散
当クリニックで抑うつの治療をしていた方。抑うつがよくなるとニキビの治療を望んだ。抗うつ薬を用いた治療もしていましたが、煩雑を避け記述は省略します。
〔症例〕男性 36歳 会社員
〔現病歴〕中学時代と20歳頃に吹出物が出た。6年前から再発して顔に ポツポツ赤いニキビが出たり消えたりを繰返している。
〔現在症〕中背やや肥満。赤ら顔であるが全体には色黒。脈沈遅。微白苔。腹には適度の弾力がある。便通1日1~2回。血圧正常範囲。
〔経過〕某年7月治療開始。実証で顔が赤いことから三黄瀉心湯を用いた。2週間飲んでも変りがなないので処方を変えた。清上防風湯にヨクイニンエキスと大黄末を加えて2週間様子を見た。すると両こめかみに化膿性の瘡がでた。同じ処方でなお2週間様子を見た。すると今度は頬周りに赤い3mm大位の小丘疹がたくさん現れた。患部は触れると熱かった。荊芥連翹湯に変更して2週後には熱が少し取れニキビも少し減った。同湯を続けて1カ月後の9月下旬にはニキビが消え顔の赤味も消えた。ただこのころ通じが出にくかった。6週後顎の下に新たに瘡が2~3個でてきた。5mmほどのこれまで見ない大きさで、周囲が赤く中央は化膿していた。ニキビをようやく退治出来たと喜んでいたのに逆襲に遭った思いがした。これは大黄を加えないのがいけないと反省し、大黄末1gとヨクイニンも一緒に加えた。期待して2週間待ったが結果は思わしくなく出ては消えを繰り返していた。便秘傾向は依然続き胃が重く吐き気がするといった。そこで10月下旬防風通聖散に変えてみた。するとニキビはみるみるよくなり1週間後には顎の下に少し残すのみとなった。同湯1カ月後、まだ新しいもの少し出るが全体としては下火になり、顔の赤味も薄れた。同湯2ヵ月余。顔の赤味が消えた。同湯6カ月後顔の肌がツルツルときれいになった。7カ月後ニキビほとんど消えていた。<2003.5.23掲載>
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ニキビに当帰芍薬散+ヨクイニン
〔症例〕女 25歳 独身 会社員
〔既往歴〕特になし
〔現病歴〕2~3年前から顔に赤い発疹がポツポツと出る。生理前には増悪しまた温まると痒くなる。皮膚科ではニキビと湿疹が混じるという。
〔現在症〕中肉中背。頬が赤い。舌に歯圧痕。脈が沈。便通は良、生理中は軟便。生理は規則的。生理前の頭痛と腰痛に鎮痛剤を使う。普段頭痛、肩凝り、夕方に脚が浮腫んで痛むなどの症状がある。
〔経過〕某年11月に初診。舌の歯圧痕や脚に浮腫を認めたことから水毒体質と判断した。当帰芍薬散を選びヨクイニンエキスを加えた。1週間の経過は、飲んで直ぐにニキビが減り、生理が始ると一旦は治り、その後また少し出た。生理痛はなかった。それから2ヵ月服用を続けてニキビは出なくなった。<2003.5.26掲載>
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ニキビに当帰芍薬散+四君子湯+附子
〔症例〕女性 34歳 独身 会社員
長年の便秘に桃核承気湯、足の浮腫には五苓散が効いた方。そして次にニキビの治療を望んだ。
〔現病歴〕しばらく前から顎にポツポツニキビがでる。ニキビは中央に化膿した尖端があり周辺部は赤くない。以前は生理の10日前ころに現れ生理2日目にはウソのように消えるのが常だった。今ではいつもでており生理前には一段と悪くなる。
〔現在症〕中肉中背。脈は沈遅。舌は苔なく湿潤。足先触れて冷たい。生理は不順で遅れる。血圧低い。
〔経過〕ニキビは色も赤味がなく、冷え性で脈も沈んで遅く、虚証と判断して当帰芍薬散を選んだ。ヨクイニンも加えた。2週後に見せてもらうと薬に少し反応しただけなので効果を高める意味で附子末1gを加えた。2週後新しくでたのは1個だけで他は旧くなり茶色に退色していた。ところが同じ処方を続けて5週間後にみると、顎に化膿した小さなものが新たに5~6個でていた。附子末を1.5gに増やして3週後ではニキビが消え生理前にもでなかった。さらに同じ処方を3週間続けると、化膿はしなくなったものの、旧いニキビの赤味が消えなかった。そこで四君子湯を追加して3週後にみると、赤味が引いていた。新しいものもでなかった。かくしてすっかり治るまでに5ヶ月を要した。
〔治療メモ〕便秘には桃核承気湯が効いたことから実証で、ニキビにも実証の薬が効くのが一般的と思うが、この方の場合は虚証の当帰芍薬散が効いた。こんな具合だから治療は個々別々で一般論通りには進まないこともある。<2003.5.26掲載>
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ニキビに当帰芍薬散+ヨクイニン+補中益気湯+大黄+附子
〔症例〕女性 25歳 事務員 
〔既往〕小学校時代に過敏性大腸炎。高校以降は生理痛で苦しんだ。
〔現病〕19歳からニキビがでた。排卵期と生理前に悪くなる。
〔現症〕1㎜大の小丘疹で中央に黄色く化膿して尖った形のものが両頬から顎に密集する。
背丈は普通だが身が細い。脈は緩い。歯圧痕。腹直筋が緊張し、臍上に動悸を触れる。小腹と臍下に強い圧痛。便通3日1回。血圧98-48mmHgと低い。生理は不順。
〔経過〕某年8月より、清上防風湯7.5g+ヨクイニンエキス6g+大黄末を6ヶ月間飲んで頂いたがさして改善しなかった。その後朝起ると不機嫌で日中は疲れ易い状態になりこれは補中益気湯ですっかり落着いた。翌年7月に至り再びニキビの治療を求めたので、同湯に加えて当帰芍薬散+ヨクイニンエキス+大黄末を1ヶ月続けた。今度は頬のニキビははほぼ消えたが、取って代ったように生理前になると顎に数㎜と大きくまた化膿を伴ったものがボツボツとでた。そこで前方に附子末1gを加えた。以後徐々に改善して2ヶ月後にはニキビが全部消え若い女性らしい肌になった。
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〔ニキビ治療のコツ〕松田先生にお習いしたことですが、ニキビにはヨクイニンを加え、便秘のときは大黄を必ず加味します。自分でも試してみるとこれで大方は確かに治ります。反面ある程度まではよくてもその後が進まない例もでてきました。そんなとき工夫して四君子湯、六君子湯、補中益気湯などを好んで加えます。胃気を高めてやると回復を早めるようです。化膿がやまない場合はむしろ附子を加える方がよいようです。治療の終盤に附子を加えてニキビにとどめを刺す思いがあります。上に掲げた治療経験からこのような仮説を立てました。<2003.5.23掲載>